イラストレーター渡邉香織さんが語る、旅が作品作りに与える影響とは
ハッピーで遊び心溢れる絵を生み出すイラストレーターfoxcoこと渡邉さん。幼少期や学生時代の旅の経験が彼女の人生観に与えてきた影響や、旅行中が最もインスピレーションを得る瞬間である理由などについて語ってくれました。

「私にとって最大のインスピレーションは、旅とファッションです」と話すのは、東京出身のイラストレーター、渡邉香織(foxco)さん。ラルフローレンや資生堂、スターバックスなど数々のブランドとコラボレーションをしてきた彼女が手掛けるイラストは、見るだけで心躍る、元気でポップな印象が特徴。そんな彼女はこれまで世界中を旅しながら、出会った人々や目にしたもの、日常の些細な出来事や感じたことなどをイラストとして記録してきたそう。
幼い頃から身近な存在だった「旅」
幼少期の頃から旅行に出かけ、絵を描いていたという渡邉さん。「幼い頃から家族で旅行していましたが、もっと旅をして別の視点で世界を見てみたい、という思いを抱き始めたのは小学6年生の頃でした」
しかし、旅心を強く掻き立てられたのは、小学生の頃有志で訪れたオーストラリアのホーム/ファームステイの時。日本では社交的な方だと思っていたのに、英語が話せないだけで恥ずかしがり屋になってしまう自分にもどかしさを感じ、思い切って自分にとって居心地の良い場所から一歩踏み出すことを決意したそう。このオーストラリアへの旅が、「常識」とされる考え方が国や文化によって異なることを知り、これまで当たり前だと思っていたことに疑問を持ち、問い直すことの重要性を学ぶきっかけとなったそう。
また、高校時代を過ごしたカナダにも特別な思い入れがあるという渡邉さん。今でもカナダの生活の名残があるという。「日本でバスに乗るときは全員が規律正しく列に並んで順番を待ちますが、カナダでは高齢者でなくても大きな荷物を持っていたら最初にバスに乗り込んだりと、順番はフレキシブルでした。おおらかで良いな、と思いました。日本にもこの考え方を持ち帰って、大荷物の人に順番を譲ったところ、列に並んでいた人も荷物を持つのを手伝いはじめてくれたりして、やってみることが大事なのだと思いました」

「今までで一番思い出深い旅行と言えば、恐らくバンフへの旅行だと思います。バンフの山 で現地の木が左右非対称なのをみて、北風が当たる方は枝がつかなくて、吹かれない方は綺麗に枝が伸びている。歪で美しい自然でした。自然の壮大さを目にしたとき、美しさは形ではなく生き方そのものにあるのだと感ました。」
創造力のインスピレーションを求めて
渡邉さんのインスタグラムを覗いてみると、旅行の様子や細部にこだわったファッション、カフタン風のドレスを身にまとっている人やカラフルなハンドバッグを持った人のイラスト、動物のスケッチ、自然の風景など、投稿の内容は様々。そんな彼女にとって、旅行は自身の作品の原動力となっており、それと同時に絵を描くこともまた旅行の欠かせない一部でもあるそう。
「旅行中は、毎日起こったことをイラストにします。イラストはレストランで描くこともあれば、パンフレットやチラシに描くこともあります。カフェやホテルのロビーでその街で過ごす人を眺めながら描くのが一番好きです。」

パリで過ごした大学時代
アートや旅行が大好きな渡邉さんは大学時代、パリのソルボンヌ大学に留学し、絵画や彫刻を勉強。課題が多く、忙しい日々を過ごしていた彼女にエネルギーを与えてくれたのはパリの街だったと振り返る。「疲れたときは街に出て、楽しそうにお酒を飲んだりおしゃべりをしている人たちのスケッチを描いていました。これがとても楽しくて、すべてはこのパリでの経験から始まった気がしています。だからパリは私にとって特別な場所です。」
また、フランスの地方で電車に乗っていたときに気が付いた文化の違いについて、「パリから電車に乗って南へ向かっていたときに、電車が急に停まったことがありました。日本だったら乗客が目的地に辿り着けるよう振替輸送があったりしますが、フランスでは違いました。その日はもう出発しない、とだけ知らされたまま、電車が再び動き出すことはありませんでした。私たちは電車から降りて、その街で一泊しました。私自身はびっくりしましたが、周りの人たちは誰も怒っている様子などはなく、『やれやれ、またか。』という雰囲気でした」と彼女は笑いながら振り返る。
心のままに旅して
渡邉さんはその後も、特に刺激が必要だと感じたときはなるべく旅行に出かけ、その際にはできるだけ多くのことを記録するよう心がけているそう。旅行は描く題材のアイデアを与えてくれるだけでなく、彼女の作品自体にも大きな影響を与えていると言う。

「旅先ではGoogle Mapsでは見えなかった建物や街で見かけたもののディテールをイラストの題材にすることが多いです。その街に住む人の様子をインスピレーションにして線や色を選んでイラストを描くことが多いです。」
旅している間はインスピレーションが次々と湧き、日常生活とは違ってワクワクが止まらないという渡邉さん。「旅に出ると、新しい描き方や自分を表現する新たな方法などの発見につながるような気がします。 私は普段は紙の余白に絵を描くことが多いのですが、旅している間は描きたいものが多いので、一枚の紙に全部まとめて日記のようにします」と語る。
2019年に一度ロンドンに拠点を移したものの、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い日本に帰国したという渡邉さんは、再び旅に出られるのが待ち遠しいと話す。「イラストを描くうえでお気に入りのモチーフはもちろんありますけど、いつでも新しいモチーフや表現の仕方など、今までとは違うものを探し求めています。常に新しいことに挑戦し続けたいです。」